個人事業主が雇用をする際に必要となる手続き

個人事業主が従業員を雇う際に必要になる手続きや、雇用後に必要な労務管理についてまとめています。

”給与支払事務所等の開設届出書”の提出


人を雇い給与を支払うこととなった場合には、所轄税務署長に対し”給与支払事務所等の開設届出書”を提出しなくてはなりません。

ただし、国税庁ホームページを見ると、

” (注) 個人が、新たに事業を始めたり事業を行うために事務所等を設けた場合、事業を行う事務所等を移転した場合、又は事業を行う事務所等を廃止した場合には、「個人事業の開業・廃業等届出書」を所轄税務署長に提出することになっていますので(所得税法229条)、この「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出する必要はありません(所得税法230条)。 ”

となっていますので、あなたがこれから開業しようとする場合には、”個人事業の開業・廃業等届出書”を提出すれば足ります。

”青色事業専従者給与に関する届出書”の提出


青色専従者給与額を必要経費に算入しようとする場合には、”青色事業専従者給与に関する届出書”を青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日までに所轄税務署へ提出する必要があります。

青色事業専従者とは以下のすべてに該当する方をいいます。

  1. 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
  2. その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
  3. その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。

生計を一にしている配偶者等に支払った給与は原則として必要経費にならないため、そのような状況にある個人事業主の方はこの手続きを実施することで、同一生計の配偶者等に支払った給与を必要経費に算入することができるようになります。(No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除

ただし、例えば配偶者について、青色専従者給与額を必要経費に算入した場合には、”配偶者控除”の38万円は受けられないこととなるため、支払う給与が少額の場合には、この制度の適用を受けずに”配偶者控除”を受けた方が有利になることも考えられます。

また、青色事業専従者に支払った給与がいくらでも必要経費になるという訳ではなく、”青色事業専従者給与に関する届出書”に記載した金額の範囲内で、かつ、労務の対価として相当であると認められる金額が必要経費と認められます。

源泉所得税の納期の特例の承認書類提出


この手続きは必須ではありませんが、給与の支給人員が常時10人未満である場合には、当手続きをすることで毎月の源泉徴収納付について年2回(7月10日と1月20日)にまとめて納付できることとなります。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請

個人事業主が従業員を雇用して給与を支払う場合、その方は源泉徴収義務者として、支払った給与に応じた所得税及び復興特別所得税を差し引くこととなっており、差し引いた所得税等は、給与支払いの翌月10日までに国に納める必要があります。

給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者については、”源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請”をすることで、源泉徴収の納付を年2回にまとめて実施することができます。
No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収

労働保険の手続き


労働保険とは、労災保険と雇用保険を指し、いずれも雇用されている方を守るための制度です。
労働保険制度(制度紹介・手続き案内)

労災保険への加入が義務付けられる場合

労災保険は、仕事中や通勤中に従業員の方がしたケガや病気をした場合等に保険給付を行うもので、従業員を1人以上雇っている個人事業主の方に加入義務があります。

労災保険の管轄は、労働基準監督署になります。

雇用保険への加入が義務付けられる場合

雇用保険は、従業員の方が失業された場合などに給付を行い、雇用の安定等を目的に運用されている保険制度です。

従業員を一人以上雇っている場合に雇用保険の加入手続きが必要になります。(ただし、雇用期間が30日以下、または1週間の労働時間が20時間未満のパートタイム労働者の方は除かれます)

雇用保険の管轄は公共職業安定所(ハローワーク)になります。

労働保険料の納付

労働保険料の納付は、例年6月1日から7月10日の間に、当年度分の保険料を概算で計算し申告・納付、前年度の確定保険料を申告・納付することになります。参考 労働保険料の申告・納付

また、概算保険料が40万円(労災保険、雇用保険のどちらか一方の場合は20万円)以上の場合等は、労働保険料の納付を3回に分割することができます。

引用:厚生労働省ホームページ

労災保険料は、支払う賃金総額(対象となる賃金についてはこちら)に保険料率をかけて計算します。労災保険料は全額事業主が負担します。

雇用保険料も賃金総額に保険料率をかけて計算しますが、雇用保険料は、事業主と労働者の双方で負担します。

引用:厚生労働省ホームページ

労働保険料についての申告書、納付書および保険料は、銀行、郵便局、所轄の都道府県労働局または労働基準監督署に申告納付します。(参考 Q.労働保険料の申告・納付の手続はどのように行えばよいのですか。

また納付については口座振替納付でも可能です(労働保険料等の口座振替納付)。

社会保険の手続


社会保険への加入が義務付けられる場合

社会保険とは一般に、健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つを指します。

5人以上の従業員を雇用していて、16の適用業種に該当する場合は、従業員の健康保険及び厚生年金保険に加入し、雇用者として保険料の半額を負担する必要があります。(クリーニング業、飲食店、ビル清掃業等の業種は任意適用となっています)

管轄は日本年金機構になります。常時5人以上の従業員が働くこととなった日から5日以内に”新規適用届”の提出が必要になります。(参考 事業所が健康保険(協会けんぽ)・厚生年金保険の適用を受けようとするとき

社会保険料の納付

社会保険への加入が義務付けられる場合には、その月分の保険料を翌月末日までに納付する必要があります。

厚生年金保険料は日本年金機構のこちらのページから確認できます。

健康保険の保険料額については、全国健康保険協会(協会けんぽ)のこちらのページから確認できます。

被保険者負担分の保険料を給与から差し引いて、事業主負担分と併せて、翌月末日までに納付します。納付方法について口座振替やインターネットバンキングなどでの納付が可能になっています。(参考 厚生年金保険の保険料

法定三帳簿等の作成・保管


法定三帳簿とは”労働者名簿”、”賃金台帳”、”出勤簿等”を指します。
それぞれ記載項目を満たす資料を作成・保存しておく必要がありますが、労務に関する帳簿については労務管理ソフトの人事労務freeeSmartHRなどでも提供されています。

労働者名簿

記載項目を満たした労働者名簿を作成し、労働者の死亡・退職・解雇の日から3年間保存しておく必要があります。

記載項目
①従業員氏名 ②生年月日 ③履歴 ④性別 ⑤住所 ⑥雇用年月日 ⑦従事する業務の内容 ⑧退職または死亡の年月日とその原因

賃金台帳

記載項目を満たした賃金台帳を作成し、労働者の最後の賃金について記入した日から3年間保存しておく必要があります。

記載項目
①従業員氏名 ②性別 ③賃金計算期間 ④労働日数 ⑤労働時間数 ⑥時間外労働時間数 ⑦深夜労働時間数 ⑧休日労働時間数 ⑨基本給や手当等の種類と額 ⑩控除項目と額

出勤簿等

記載項目を満たした出勤簿等を作成し、労働者の最後の出勤日から3年間保存しておく必要があります。

記載項目
就業員の出勤日ごとに、始業・就業時間、残業時間が記録され、使用者および労働者の双方により確認がなされていること。

労働条件通知書

記載項目を満たした労働条件通知書を作成し、交付日から3年間保存しておく必要があります。

記載項目
①労働契約の期間 ②就業の場所および従事する業務 ③労働時間や休日・休暇に関する事項 ④賃金に関する事項 ⑤退職に関する事項 ⑥その他必要事項

就業規則

10人以上の従業員を雇用する場合には、就業規則を作成し、労働基準監督署長に届け出る必要があります。(人を雇うときのルール

源泉徴収額の計算・納付


個人事業主が、従業員を雇用して給与を支払っている場合には源泉徴収義務者となり、支払う給与から所得税及び復興特別所得税(平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に生ずる所得について)を源泉徴収をして、給与を支払った月の翌月10日までに国に納付する必要があります。

※常時2人以下のお手伝いさんなどのような家事使用人だけに給与を支払っている個人は、その支払う給与や退職金について源泉徴収をする必要はありません。

源泉徴収する金額は国税庁ホームページに掲載されている、源泉徴収税額表にて確認できます。

納付書については、”給与支払事務所等の開設届出書”または ”個人事業の開業等届出書”に記載の住所に送付されてくるかと思いますが、納付書とともに税務署や郵便局、銀行などの取扱窓口へ行って納付する以外にもインターネットバンキング等を利用した納付方法もあるのでご参照されてください(参考 国税の納付手続(納期限・振替日・納付方法)

また、給与の支給人員が常時10人未満である場合には、”源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請”をすることで毎月の源泉徴収納付について年2回(7月10日と1月20日)にまとめて納付できます。

年末調整の実施


年末調整の概要

年末調整とは、源泉徴収した所得税と実施に納めるべき所得税の確定額との過不足を精算をする手続きになります。
年末調整は給与所得を対象とした制度であり、基本的に個人事業主の方の年末調整は必要ありません。(個人事業主の方が給与所得を得ている場合には、勤務先から源泉徴収票を受け取り自身の確定申告に反映する必要があります、これをしないとせっかく支払った税金を支払っていないものとして納税額の計算を行うことになるので源泉徴収票はもらいましょう)

基本的には年末の時点で雇用している従業員について年末調整が必要になります(年間の給与収入が2000万円を超える方については年末調整の対象外です)。

年末調整をする際は、従業員の方が受けるべき所得控除を確定するために以下の書類の準備が必要になります。

  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 …扶養親族などを記入
  • 給与所得者の保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書 …支払った保険料などを記入
  • 住宅借入金等特別控除申告書 …住宅ローン控除を受けている場合に作成

12月の給与支払い日までに、確定の所得税額を計算し、徴収未了額を指しい引いた給与を支払います。
徴収額が確定額よりも多い場合には12月の給与で従業員の方に還付します。

12月の給与から徴収した税額は翌年1月10日までに納付します。

作成した源泉徴収票は従業員に交付します。

参考 国税庁 年末調整

税務署への提出書類

また以下の場合には税務署にも源泉徴収票の提出が必要です。

作成した給与所得の源泉徴収票についての法定調書合計表についても税務署への提出が必要になります。
法定調書合計表とはある法定調書(給与所得の源泉徴収票はそのひとつ)についてのまとめの書類(A4用紙1枚にその法定調書のについての延べ人数と支払金額、源泉徴収税額などの総額を記載し、そのうち税務署へ提出する分の合計を記載する)になります。

[手続名]給与所得の源泉徴収票(同合計表)

市町村への提出書類

市町村へは”給与支払報告書(個人別明細書)”および”給与支払報告書(統括表)”を送付する必要があります。No.7400 法定調書の提出義務者

給与支払報告書の提出先は、従業員の方が翌年1月1日現在(または退職時)に住民登録をしている市町村になります。

給与支払報告書の提出の対象は、税務署に提出する書類と違い、給与を支払った従業員全員の分を提出する必要があります。

まとめ


従業員を雇うと事業主として対応しなければならないことがぐっと増えてきて大変だと思います。

人事労務に関する手続きはとても多くて大変ですが、従業員のかたに安心して働いてもらうため、また、しっかり手続して事業に集中できるように、本記事がお役に立ったら幸いです。

また、人事労務ソフトを利用すれば、従業員の給与計算や年末調整、法定三帳簿の作成、労働保険の年度更新などにも対応しており、効率化できるかもしれません。

参考 おすすめ人事労務ソフト( 人事労務freeeSmartHR